1.2くらいから考える将棋ブログ

わかった気になるも、よくわからないことを考えていく?

戦法名と起源主張って?その3

対銀冠穴熊6三金5ニ金6二玉型飛車転換戦法を巡る騒動にて、私も戦法名と起源主張については気になるところがあった。
1.戦法名のつけられ方と伝播
(私個人としては、)戦法が戦法として認知されるためには、認知対象がその一連の手順が優秀かつ再現可能であることを理解する必要があると考える。
例えば藤井システムは、ある程度目標とする形や手順が決まっているので、その形に組み上げれば(厳密な形の差異による作戦の成否は別にすれば)その戦法を指したと思うことができる。
仮に藤井システムを知らない人にその指し手を見せれば、見た人は「独創的な組み換え」「力戦形」などの印象を持つ。
同様に今回のユキ式システム(?)も、知らない人から見れば「斬新な組み換えから玉頭に殺到した」ぐらいしか感じないのではないか。


ここで、ユキ氏のツイートを参照すると



とあるので、当時より一部の限られたコミュニティでは、これが戦法であると認識されていたと予想される。
今回の騒ぎの一端は、この戦法をこいなぎ氏やsuimon氏がユキ氏由来ではなく、宇佐見蓮子流やソフト流として広めたところにあるだろう。


ここは現実的には面倒なところである。
両氏がユキ氏や該当システムのことを知っていればこういうことはなかったが、当時鍵垢だったユキ氏の主張を両氏が目にすることは容易ではなかったのではないか、結果としてこいなぎ氏は24での対局を見て宇佐見蓮子流と、suimon氏はソフトの対局で何度か偶然現れたこの局面を見て、ソフト流と認識したのではないだろうか。

新手や新戦法は発案者の主張に触れる機会がなければ(もしくは発案者が不明の場合)、その場で見たものを新手として判断してしまうこともある。
以下のコンピュータ将棋協会のブログはやや古い話ではあるが、ゴキ中の変化に登場する4四角の一手が王将戦という大舞台で偶然GPS将棋が指摘したことで「GPS新手(後にBonkras新手と言われたりした)」と呼ばれる話があった。
コンピュータ将棋協会blog » コンピュータ将棋が産んだ定跡
記事のコメント欄を読んでいただけるとわかるように、4四角はそれ以前より2chで指摘されていたことがわかるが、その変化を紹介したゴキ研の存在を知らなかったために、一時はGPS新手と呼ばれた。


特定の形や手順が戦法として認識される以上に、その「戦法」の名前や出自が決まる過程は複雑怪奇である。
阪田三吉名人・王将が一局だけ指した将棋を、関西将棋を知らなかった東京の観戦記者が大騒ぎした結果定着したという噂話がある「阪田流向飛車」
・三浦六段(当時)が1998年のアマプロ平手戦で「後手番一手損角換わり」を指したが、公式戦で指したのは2003年の淡路九段
・棋書「B級戦法の達人」にある「逆襲!変幻飛車」の類似形がその後「角交換四間飛車」としてA級戦法になる
・「イビアナ」の起源を巡る田中寅彦九段と大木和博氏による裁判(参考URL:参考Wikipedia田丸九段のブログその他一般ブログ
・居角左美濃左美濃急戦と名前が定まらないあの急戦について、斎藤慎太郎七段の棋書や升田幸三賞で「対矢倉左美濃急戦」との名称が採用される
上記の5つの例を見ても、戦法名やその起源は狙ってどうこうなるようなものでは無く、結果的にその戦法をより広い範囲(級位者なども含む?)に広めた人が影響を持つようにも見える。

一方で、SNSや個人ブログなど個人の発信の機会や情報伝達の速度が増えた結果、戦法名が定着した例もある。
・ニコ生の将棋配信主マント氏が生み出した「きmきm金」
タップ・ダイス氏が長年に渡る主張とKDPによりついに定着を果たした「トマホーク」

現状では、戦法の名称については知名度のある存在による普及の影響が強く、声の小さい研究者/発案者が命名するには工夫が求められる環境だといえる。
起源主張についてもややこしいことには変わりはない。棋譜データベースがあるとはいえ(もちろん、棋譜データベースの整備状況も理想には程遠いが)棋譜に現れる手順はその背後にある膨大な研究のほんの表層にすぎない。科学研究とは異なり、成果が勝敗につながるものなので気軽に公開するというわけにもいかず難しい環境だといえる。(メモ:この辺の考えは特許に近い?要確認)。


今回のユキ氏の話に戻して考えれば、この戦法を普及させようとしているのは現在ユキ氏・こいなぎ氏、suimon氏であり、それぞれのツイートやブログを見る層は、左の方から超上級者・高段者・有段者や級位者という印象である。(※完全に主観です。)
suimon氏はこの中で影響力が強いので、この戦法の発祥、名称の大勢はかのブログ如何によって左右されそうである。幸い、彼のブログ記事ではソフト由来の戦法でないことは明記されているので、ユキ氏のこの戦法がソフト発だと思われることはなさそうだ。
名称については不明、現状の流れでは宇佐見蓮子流が主流で、通はSwitchシステムやユキシステムと呼ぶ感じになりそうだ。



タップ・ダイス氏の参考ツイート